【トークレポート04】島村菜津さん

5月6日、ポレポレ東中野にて、新得・共働学舎を取材した「生きる場所のつくり方」の著者である島村菜津さんを迎えてのトークイベントを開催しました。過去にイタリアのスローフードを日本に紹介した島村さんが映画で気になったとおっしゃるのは「時間」について。「真木時間」に触れながら、楽しくトークをしてくださいました。

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島村
「この映画を見てすごいなと思ったのはね。社会性をテーマをした映画のなかには、境界線にいる人やみんなと一緒に動けない人のためにがんばる人が主役で、その人の奮闘記って多いですよね。それでも私達は感動するんですけれど、本橋さんはそういう視点ではないですね。信さんの日々のがんばりを距離を取って撮っておられて、ご自身の目で解釈しておられないですね。」

本橋
「真木時間というのがあって、東京に住んでいる人間にはそれが新鮮なんですね。真木でも農業をやっていて、彼らの中にもそれがある。当たり前のなんだけど、食卓に並ぶ食べ物を喜ぶところを見てね。ああ、都会だといつでもあるから、と。新鮮でしたね。そういう時間の流れが創設者の宮嶋眞一郎先生が残したかった大切なものですね。4キロ1時間半歩く、その時間がまさにタイムトンネルで。タイムトンネルで真木は保たれてる。」

島村
「それでね、時間なんです。今回の映画、もう一度見に来ようかと思っているのは、やはり時間のことなんです。昔、スローフードの本を書いたのもそこなんですよ。時間と空間が均質化していくのがいやで。自分が年を取れば取るほどいやなんです。次の世代に残す時間と空間のありようとしても、つまんないでしょ。真木にはみずほさんの時間と、さっさとお手して座っているイヌの時間とか、いろんな時間が見えますよね。」

本橋
「クニさんやいとっちは、毎日曜日、1時間半かけて山を下っていくんですよ。何をしに行くの?と聞くとコーラを飲みに行くんだって言うんだよ。新しいものは入って来るんだけども、それに占領されてないんですよね。」

島村
「新しいものに飲み込まれないんですね。飲み込んでしまっている人たちが、あの山にいるんですね。私達、どうしてもふつうの生活のリズムで、お勤めに行って学校に通ってという暮らしの中で、そのリズムについて行けない人を『このリズムについていけない人』と判で押した観方をしてしまいますね。でもこの映画を観ていると、ミズホさんの狂言回しとしての素地の高さ、際立ってますでしょ。ユーモアのセンスといい、絶妙だなと思うし。撮影のときは、そういうものが見えてくるまで待ってらっしゃるの?」

本橋
「いや、もう、そういうものばかりですからね。例えばね、ミズホさんは稲を植えてるときも、止まっちゃったりするんです。
あんまり長く止まるので、最初はカメラ回しっぱなしでいいのかどうかって思ったくらい。フィルムならもったいないけど、デジタルだし、まわそうって。映画の中でも、雪かきしていて、シャベルさしたまま動かなくなって。そしたら鳥が鳴いてくれたんですよね。」

島村
「鳥が鳴かなかったら、故障したと思いますもんね。」

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本橋
「エノさん、早口で言葉がほとんどわからないでしょ?だけどフランスから研修に人が来たりなんかすると、一番しゃべってるのはエノさんなんですよ。」

島村
「フランス人と?!え、それは何語でしょう。」

本橋
「だから、エノさん語とフランス語で・・・笑」

島村
「超えちゃうのね、言葉を。グローバル化のネガティブなところは際立つけど、悪いことばかりでなくて、そうやって、フランス人が真木に泊まってるってのもすごいことだと思うし、本当のコミュニケーション能力ってなんだってエノさんに教えられますね。私の両親が80代半ばで、高齢者マンションで暮らしているんですけど。今のデイケアって、大音響で演歌がかかってて、『むすんでひらいて』を朝からやらされて。そういうことを変えるヒントが詰まってるような気がするんですよ。もうちょっと85歳の人の思いに寄り添って、その人の時間に入っていってくれたら、もっと面白い空間がつくれるんじゃないかと。」

本橋
「うんうん、エノさん、いとっちを見てるとね。こんな人たちがいてくれたらいいな、と。ぼくのこどものころはいたんですよ、変なこわいおじさんおばさんが。なるべくその家の前を通んないようにしようとかね。みんな、どっかに押し込められちゃったでしょ。それが福祉とかっていうことなんでしょうけど、本来ならばごちゃごちゃに一緒にすべき。」

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本橋
「世界は一家、人類はみな兄弟って、ちょっと違うなと思うんです。宗教も食べ物も違うんだから。大事なことは相手を認めることなんですよね。共働学舎の中では、相手がヤなこと、好きなことを認める、だけど自分の思いを押し付けない。そういうこと一番大切ですよ。夫婦でも恋人でも相手を認める、価値観を共有する、それがここではできてる。」

島村
「観た後、帰り道で私にできないことを、彼らができてるって気づいたんです。私、ひとりで物書きしてるから、とてもわがままなんですけど、そのことをすごく考えさせられます。それから、本橋さんも身につけてらっしゃるけど、山仕事。信さん、みんなのことケアしながら当たり前に山仕事されています。そういうことが身についているっていうのは、実は人間としてすごく成熟していて、逆に都会にいて便利に見える文明人のように思ってる私達が非常にいびつだということに打ちのめされました。また、この映画は、環境の『か』、エコの『え』の字も一言も言わずに、その本質的なことを教えてくれたように思います。『アレクセイと泉』からずっと一本つながっている何かがある気がします。」

本橋
「いろんなものが便利になって、やっぱり真木にいくと、知識より知恵が大事だと。新しいいろんなものができてくると、知恵が不要なものに見えてくるんですよ。もう一度、知恵の積み重ねを思い出して暮らしていけたらいいなと思います。」

島村
「知恵の中でもユーモア、暮らしの中に尊厳を与えるものは文化だと思うんだけど、文化の最上級のものがユーモアだというふうに思います。すごく大事な気がします。」

本橋
「ユーモアが出てくるような暮らし。それって経済的に裕福であるかなんて関係ないんですよね。」

20150506

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映画『アラヤシキの住人たち』
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