【コラム04】「アラヤシキの住人たち」考(3)石井彰さん

「アラヤシキの住人たち」考

3.時間は止まりながら、流れていく

 映画の最後に流れてくるのは、住人のエノさんとマコトさんによって歌われる、矢沢永吉の名曲「時間よ止まれ」だ。
 この歌を聴きながら、誰もが映画で描かれた、ある場面を思い出すだろう。それは住人のミズホさんの雪かきだ。
 豪雪地帯の小谷村では毎日行われる日常だが、ミスボさんはすでに凍り始めた雪の固まりに勢いよくスコップを突き刺して、そこで必ず止まる。そのまましばらく動かない。まるでストップモーションをかけたかように思ってしまう。数秒「止まったままの時間が流れ」ようやく動き始め雪をどけると、またスコップを突き刺す。そしてまた止まる。これが何度も何度も同じように繰り返される。
 疲れたから、あるいはあまりの雪の固さにたじろいで止まるのではない。ミズホさん固有の時間のリズムなのだ。
 私たちは同じ時間の流れを生きている、と錯覚している。きっと誰もがそれぞれ「固有の時間」を持っているはずなのに、競争社会では同じ24時間の中で生きることを強いられる。アラヤシキでは、それぞれの住人たちの時間が流れ、それが共存して大事にされている。それはとてもかけがえがない。
 (続く)

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映画『アラヤシキの住人たち』
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