「アラヤシキの住人たち」考
4.空と土のあいだで
この映画にはたびたび「空」が映し出される。山々の向こうに輝く美しい夕焼け、流れる雲、そして冬の曇天・・・・。「空」に同じ表情はひとつもなく、たえず変化していく。でもそれらはこの集落の人々を、いつも同じように見守っている。
広角レンズで撮られた一之瀬正史撮影による「空」は、たんなる「美しい自然の映像」とはとても思えない。それは啓示的だ。
いつもそこにある、でもたえず形を変えていくという「空」の存在を、視るものに深く刻み込んでいく。
その「空」のもとで、住人たちは「土」を耕して働き、日々の暮らしを営んでいる。いまや死語となりつつある「いつだってお天道様が見ているよ」という言葉が、ふと思い出される。
この「空」は、私たちの暮らす街にもつながっている。けれど街に「土」は見えない。
この映画は、どこか遠くにある「不思議な場所」や「理想郷」の物語ではない。麓からは一時間半、山道を歩いていかねばならならないけれど、私たちの隣にある集落だ。
「アラヤシキ」が、私たちとつながっていることをこの「空」が静かに伝えている。
(続く)