【コラム03】「アラヤシキの住人たち」考(2)石井彰さん

「アラヤシキの住人たち」考

2.山脈の美しさに圧倒される

 長野県諏訪で生まれ育った山猿の私から見ると「山はいつもそこにある」あたりまえのもので、むしろ山は「都会と自分を隔てる高い壁」のようなものだった。
 この映画には、同じ場所から撮られた北アルプスの気高い山脈が何度も絶妙なタイミングで映し出される。それはあまりに美しく「壁」ではない。一ノ瀬正史カメラマンによって映し出された山脈の美しさに圧倒される。
 信州人にとって「山は神」であり、「地に暮らす人々」を見守るとても大きな存在だ。
 大きな神によって見守られた小さな集落では、別の神に基づく理念によって、小さな人々の営みが続いている。けれども、何度も四季折々に姿を変える同じ山脈が描かれることによって、小さな集落がなにか特別な場所ではなく、ひとつのあたりまえの場所として、見るものに感じさせる絶大な効果を持った。
 私が見続けてきた中央アルプスと、真木集落を見守る北アルプスとの違いはあれども、山はいつも私たちを見守っている、そう気づかされた。故郷を捨て都会で還暦を迎えた山猿に、そのことに気づきを与えてくれた撮影の素晴らしさはいうまでもなく、石川翔平の編集にも、思わずうならされた。
(続く)

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映画『アラヤシキの住人たち』
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